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鎌倉 厳冬の朝比奈峠を行く

Jan.17, 2001 朝比奈切通し~熊野神社

鎌倉 厳冬の朝比奈峠を行く:イメージ1

自然が最も厳しく、神々しい表情を見せる冬。鎌倉の東の果てには、何があるのだろう。鎌倉駅からバスに乗り、十二所神社前で降りた。激しく車が往来する新金沢街道。時に取り残されたように、赤い前かけの野地蔵が立っている。そのまなざしの先に、深い山へと続く細い道がある。今ではわき道となったこの切通しへの道も、昔は金沢へ向かう唯一の道だった。

鎌倉 厳冬の朝比奈峠を行く:イメージ2

見上げれば、青空を背に石碑が三つ。切通し庚申塚だ。馬頭観音などの文字が刻まれている。いにしえの人々も、この辺りで馬を降り頭を下げて行ったのだろうか。泉橋を渡り、滑川の流れは太刀洗川へと名前を変える。川は次第に細くなり、幾重もの小さな滝を越えて流れ落ちる。人家は消え、いよいよ山合いの道に入ってきた。昼も太陽が当たらない土の路面はところどころが凍り、足をすくう。何層も連なる霜柱を、ザクザクと踏み進んだ。

鎌倉 厳冬の朝比奈峠を行く:イメージ3

チチッ。澄んだ声を上げ、鮮やかな黄色の小鳥が矢のように飛ぶ。水辺を好む、キセキレイだ。対岸の祠からは、筧を通って清水がしたたり落ちている。鎌倉五名水に数えられる、梶原太刀洗の水。頼朝の命で上総介広常を討った梶原景時が、血刀を洗ったいわれをもつ。後に、それまで陰になり日向になり付き添っていた広常には謀反の心は無かったことを知り、頼朝は殺害を深く悔いたといわれる。かつて血潮に染まったことなど嘘のように、どこまでも透き通る水が、氷をくぐり軽やかに流れる。

鎌倉 厳冬の朝比奈峠を行く:イメージ4

道の奥に、7メートルほどの高みから流れ落ちる朝比奈の小滝がある。史跡の標識は、ここから鎌倉七切通しの一つ、朝比奈切通しが始まることを告げてくれる。鎌倉期、東部固めの要衝とされた場所だ。ゆるやかなカーブを曲がれば、道は切り立つ崖の合間に吸い込まれていく。氷が閉ざす静寂の道に、ときおりドサリとつららが落ちる。人里離れた幽谷に、迷い込んだようだ。

鎌倉 厳冬の朝比奈峠を行く:イメージ5

やや急な上り坂を登りきれば、朝比奈峠。鎌倉幕府の初代侍所別当である和田義盛の子、朝比奈三郎義秀が、一夜で切り開いたともいわれる。山壁にはやぐらが掘られ、小さな碑がかつての古道の面影を伝える。峠の頂上は、鎌倉市と横浜市との境界だ。山道を下り始めると、東に眺望が開ける。六浦方面へと下る道だ。まもなく、右の山手へ上がる道との分岐点が現れる。案内板が示すのは「熊野神社」。朝比奈切通しの開発守護神として、頼朝が熊野三社大明神を勧進したいわれがある。朝比奈の鎮守へ参拝に、足を伸ばすことにした。

鎌倉 厳冬の朝比奈峠を行く:イメージ6

ひっそり静まり返った杉木立を抜けると、鳥居と石段が見えてくる。熊野神社だ。この侘しい金沢の山に、かつて室町時代の武将、太田道灌が狩りにきた折の話が伝わる。ふいの雨で、山家に駆け込み蓑の借用を申し出たところ、娘は無言のうち、八重の山吹を盆に載せ差し出した。“実の”つかない八重の山吹で、質素な暮らしゆえ、“蓑”一つだに無いことを伝え詫びたのだ。厳かな自然のたたずまいに包まれていると、賤の娘の奥ゆかしさが、この身にも宿りくる気がする。

鎌倉 厳冬の朝比奈峠を行く:イメージ7

熊野神社の右手後ろの急な坂を登る。神社の後ろにひかえるのが権現山だ。突き当たりの尾根で右と左に道は別れる。振り向いて東を仰げば、木々の間から東京湾が臨める。タンカーが行き交い、鎌倉に面する相模湾とは一味違う海の表情。分岐点で右へ向かえば、道は細かなアップダウンを繰り返して先に通った朝比奈の小滝の前へと戻る。徐々に人家が増え、人々の生活の音が聞こえてきた。凍てついた朝比奈の、すがすがしい空気はまだ体に満ちている。山奥の清らかな水と空気は、人の心にまで禊を授けてくれたようだ。

-DATA-

場所:
神奈川県鎌倉市朝比奈
交通:
鎌倉駅よりバスで十二所神社前バス停下車
コース:
十二所神社前バス停(徒歩15分)→梶原太刀洗の水(徒歩5分)→朝比奈の小滝(徒歩15分)→朝比奈峠(徒歩20分)→熊野神社(徒歩20分)→梶原太刀洗の水(徒歩15分)→十二所神社前バス停
駐車場:
無し
トイレ:
鎌倉駅より先コース上には無し
参考文献:
御所見直好『誰も知らない鎌倉路』集英社、1983
浄明寺太郎『鎌倉なんでもガイド』金園社

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