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丹沢 堂平のブナ林

Oct. 21, 2000 原生林とシカたちの明日を考える

丹沢 堂平のブナ林:イメージ1

神奈川の水源、丹沢のブナ林の現状を、自然保護の立場から学びたい。こう思っていたところ、県が主催する森林インストラクター養成講座の一環で、堂平のブナ林に入る機会を得た。堂平は、丹沢山塊の主峰、丹沢山の中腹にあるブナの原生林で、県の美林50選にも指定されているところだ。登山口まで一般車両進入禁止の林道が長く続くアプローチしにくいコースだが、今回は県の許可を得た車で奥まで入る。起点施設の県立札掛森の家へ車で登る。垂れ込める朝霧を抜けると、純白に輝く雲海が眼下に広がった。

丹沢 堂平のブナ林:イメージ2

札掛橋より布川沿いに県道秦野清川線を北上すると、右手にモミ林が見える。希少な原生の純林で、県の天然記念物にも指定されている。この林には、県職員に語り継がれる武勇伝がある。物資が急速に欠乏していった戦時中、周辺の林は次々と伐採された。当地の林を戦闘機のプロペラ資材に供出せよ、と刀をつきつける軍に対し、当時の県林務課の職員は「このモミ林は後世に手渡すべき財産だ」と体を張り立ちふさがったのだ。こうして貫かれた信念が、絶滅危惧種のクマタカがすむという深い森を現在も育み続けている。

丹沢 堂平のブナ林:イメージ3

塩水林道への入り口で、一般車両侵入禁止の柵が現れる。ここからは許可を得た車両と歩行者のみが通行できる。塩水林道を抜け、登山口へ。丹沢自然保護協会会長、中川道也氏の案内で山へ入る。杉林を抜け、明るいブナの林に着いた。しかし我々が見る「美しいブナ林」は、シカがつくった風景だという。確かに植生保護のための柵内には青々と下草が茂っているが、外にはほとんど無い。シカの食害だ。柵の内外では植物の成長が10倍以上違い、柵外にはシカの好まない植物ばかり増えているという調査データもある。

丹沢 堂平のブナ林:イメージ4

水無沢の分岐に出て、昼食を取る。古来人々は、こうした沢すじを好むスギを乾燥した尾根などに植えても根付かないと、人工林に広葉樹を点在させていたそうだ。しかし一斉伐採、拡大造林が行われた頃から、シカは急増したという。7、8年前からは目に見えてヤブが後退し、物陰を好む鳥や、木の実を好むクマも激減した。「自然は、一つを壊すとみんな駄目になる」-それを実証するために一つ一つモニタリング、追跡調査をする必要があると語る中川氏の目には、現実を見据え、立ち討とうとする確かな力があった。

丹沢 堂平のブナ林:イメージ5

ふと足元を見ると、ブナの実の殻が、朽木のコケの上に点々と埋め込まれている。中の実を食べるためにホシガラスが差し込んで固定したのではないか、ということだ。殻から出た小さな三角錐状の種を転がしていると、「持って帰って芽を出させて、苗になったらまたここに植えに来な」。丹沢自然保護協会では、在来樹種の植樹祭を、毎年春と秋に行っているそうだ。こんな小さなことからできる自然保護もある。

丹沢 堂平のブナ林:イメージ6

地面を掘り返したシカのヌタ場やフンなど、フィールドサインを辿って山道をジグザグに登る。視界が開け、堂平に到着。色づき始めたブナの林で、農工大の学生たちに出会った。彼らのようなボランティアの尽力で、200以上の植生保護柵が作られ、深刻な状況にある丹沢の山にも、かなりの植物が返ってきたそうだ。ブナの森を、明るく白い霧が静かに包み込んでいく。

丹沢 堂平のブナ林:イメージ7

ピィーヨー。下山する我々の耳に鋭くシカの声が響く。シカの食害は全国で問題になっているが、3頭捕獲すれば3頭分の被害が減るというわけではない。彼らが生存本能を貫くべく餌をとり、移動し、子孫を残せるだけの生息地を確保しなければ、人間と動物のいたちごっこは止まらないのだ。平成9年の「かながわ新総合計画21」は各地域間で生きものが行き来できる回廊づくりをうたい、国も西丹沢を遺伝子保存林として指定している。丹沢の未来を考えることは、森が育む水に支えられる人間自身の未来を考えることに他ならない。

-DATA-

場所:
神奈川県 愛甲郡 清川村 東丹沢県民の森内 堂平ブナ林
交通:
県立札掛森の家へのアプローチ
車では名古木交差点より約40分、清川村宮ヶ瀬より約35分、バス利用の場合秦野駅よりヤビツ峠行き終点下車徒歩約90分
タイム:
県立札掛森の家からのルート
県立札掛森の家→県道秦野清川線→塩水林道(徒歩2時間30分)→登山口(徒歩30分)→水無沢(徒歩20分)→堂平
起点施設:
県立札掛森の家
(神奈川県愛甲郡清川村煤ヶ谷5172-1 ℡0463-75-4896)
国民宿舎丹沢ホーム:丹沢自然保護協会事務局
(神奈川県秦野局内区丹沢札掛 ℡0463-75-3272)
駐車場:
起点施設に有り
トイレ:
起点施設に有り
その他:
登山口へのアプローチ法を起点施設で確認の上入山すると良い

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