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エイベル・タズマン・コースト・トラック

Nov.26-29, 1998 パラダイス・ビーチを巡る海岸線トランピング

エイベル・タズマン・コースト・トラック:イメージ1

「ニュージーランド(以下NZ)と日本のトレッキングの違いは?」
良く訊かれる質問だ。思いつくままに挙げても「NZではトレッキングをトランピングと呼ぶ」などという『言葉の違い』に始まり、「ゴミが見当たらない」などの『マナーの違い』、トラックの整備の仕方から垣間見ることの出来る『自然保護観の違い』と、枚挙に暇がない。そんな中でも特に際立って大きな違いの1 つとして、『海岸線トラック』の存在を外すわけにはいかないだろう。言うまでもないが、日本の海岸線は過度に開発が進んでいるか、逆にトラックさえ作れないような場所かのどちらか。よって長い海岸線トラックは望むべくもない。そもそも日本には『海岸をトレッキングする』と言う発想さえないのが現実だ。ところが人口の少ないNZの場合は、そこここに美しい手付かずの海岸線が残されており、長いトランピングを楽しむことの出来るトラックがいくつも存在する。今回ご紹介するトラックは、そうした海岸線トラックの中の最高峰だ。

エイベル・タズマン・コースト・トラック:イメージ2

DOC(NZ自然保護局)はNZのトランピング・コースの中から特に素晴らしいものを9つ選んで『グレート・ウォークス』と名付けている。『トレッキングレポート No.9001』でご紹介した、有名なミルフォード・トラック(以下ミルフォード)がその筆頭。そして今回ご紹介するエイベル・タズマン・コースト・トラック(以下コースト・トラック)もその1つだ。グレート・ウォークス中唯一の海岸線トラックであるこのコースト・トラックは、その名から伺える通り『パドリングレポート No.9001』でご紹介した私の職場エイベル・タズマン国立公園の中にある。

エイベル・タズマン・コースト・トラック:イメージ3

国内最大の観光客数を誇る超人気国立公園ゆえ、コースト・トラックもミルフォード同様、ハット(山小屋)は事前予約制度を採用している。しかしミルフォードが3つのハットを順にまとめてセットで同時予約しなくてはならないのに対し、コースト・トラックの方は宿泊順や宿泊日数などに特に決まりはないので、自由度は比べ物にならないほど高い。しかも主要ビーチを結んで『ウォータータクシー』と呼ばれる定期ボート便が運行しているので、好きな場所だけをつまみ食い的に歩くことが出来るのも、このトラックの美点だ。だから全長自体は51kmとほぼミルフォードと同じなのだが、日程的・体力的な制約が各段に低く、非常にお手頃なのだ。そもそもミルフォード以上にアップダウンの少ない楽チンなトラックだし、日本に比類するもののない海岸線トラック。そういう意味で、ミルフォード以上に日本人向けのトラックだと思うし、人気も今後ますます高まるのではないかと思っている。

エイベル・タズマン・コースト・トラック:イメージ4

さて、このトラックの名物は『パドリングレポート No.9001』でご紹介した『碧の海と黄金の砂浜』だ。碧の水とたわむれ、母なる海の胎動を直に堪能しようとするならばシーカヤックに分があるが、コースト・トラックの高い視点からの眺望も負けず劣らず素晴らしい。丘の上から望む碧のグラデーションの色合いは筆舌に尽くしがたく、やはり水面すれすれのシーカヤックの視点とは全く違う感動を与えてくれる。それはまさに翡翠そのもの。『緑のビロード』のような森と『金の飾り』のようなビーチをアクセントにあしらった巨大な翡翠の美しさには、到底値段のつけようもない。

エイベル・タズマン・コースト・トラック:イメージ5

そしてこのトラックのもう1つの名物が、『タイダル・クロッシング』。前段の『翡翠の眺め』が観て楽しむ名物ならば、こちらは体験して楽しむイヴェントだ。実はこのエリアの海はNZで最大の潮汐差を誇っており、最大時には1日の干満差が4mを超える。それにも関わらず、ほとんど潮流がない。通常こうした海は遠浅の海岸を生み出すのだが、ここも例外ではなく、国立公園内には干潮時に広大な干潟となる遠浅のビーチがいくつかある。もちろん有明海のような泥の干潟ではなく、ここの場合はゴールデン・サンド・ビーチだ。そうしたビーチでは、コースト・トラックは『満潮時ルート』と『干潮時ルート』の2本に分岐する。満潮時には他の部分と同様、海岸沿いの森の中を巡る遠回りルートを歩くことになるが、干潮時には黄金の干潟をショートカットすることが出来るのだ。このショートカットを『タイダル・クロッシング』と呼ぶ。ビーチによるが、タイダル・クロッシングは干潮時の前後2時間ずつの計4時間の間なら可能とされている。しかし脚の短い日本人には実際には干潮時の前後1~1.5時間程度の計2~3時間の間が安全圏だろう。干潟とは言え、川が流れ込んでいたり、低くなっていて海水が完全に引いていない部分があったりするので、時には膝下を濡らしつつ歩くことになる。これが言うに言われぬ快感なのだ。白く輝く無数の貝殻が敷き詰められた黄金のビーチを清冽な水が洗い、不思議な斑紋を水底に映し出す。そこをくるぶしを濡らしつつ歩き、斑紋を掻き乱す。立ち止まって足の裏で砂や貝殻の感触を楽しみ、足の甲を洗う水の冷たさを堪能する。目の前を横切る藍い鳥はキング・フィッシャー、カワセミだ。初めてこのタイダル・クロッシングを体験した時の感動は今でも忘れられないし、ここで仕事をするようになった今も、この広大なビーチを歩くたびに感嘆の溜息をついてしまう。残念ながらこの爽快感を表す言葉を私は知らない。百聞は一見に如かず、ぜひとも1度体験してみていただきたいと思う。

エイベル・タズマン・コースト・トラック:イメージ6

なお、実は公園内には2箇所だけ満潮時ルートが存在しない場所がある。アワロアというタイダル・クロッシング・ビーチと、オネタフティ・ビーチの北の端の幅数mの水路だ。だからこの2つのビーチを行程に含む場合は、『干潮待ち』が必要になる場合がある。事前に潮の時刻は要確認だ。もちろん他のタイダル・クロッシング・ビーチも、満潮時ルートと干潮時ルートでは所要時間が変わって来るし、途中で潮が満ちてくるとシャレにならないので、どちらにしてもこのトラックを歩く際は、事前に潮汐表は確認しなくてはいけない。トレッキングの際に潮汐表を確認するなんて、日本ではなかなか機会のない面白い体験だ。

エイベル・タズマン・コースト・トラック:イメージ7

公園内の宿泊は、前記のハット(計4つ)の他に20以上のキャンプサイトと、民営の民宿が3つある。今回は字数の関係でご紹介できなかったが、今後エイベル・タズマン国立公園内のキャンプサイトは、シリーズで順にご紹介していこうと思っている。乞うご期待。

-DATA-

場所:
・エイベル・タズマン国立公園 - ニュージーランド南島北端付近、タズマン湾に西側にある国内最小国立公園
・エイベル・タズマン・コースト・トラック - 上記国立公園の海岸線を南北に貫くトランピング・コース。全長51km、起伏が少なく、冬でも暖かく安定した気候の、初心者向きの穏やかなトラック。
交通:
○ネルソン - マラハウ間
・自家用車で70分
・バスで1時間半
○国立公園内
・ウォータータクシーと呼ばれる定期ボート便が主要ビーチを結んで毎日運行している
駐車場:
公園南端の村、マラハウのトラック入り口に、DOC管理の無料駐車場あり
トイレ:
国立公園内のビーチにはたいていトイレ付きのキャンプ場が整備されている
宿泊:
・ハット - 4つ。夏季は1泊NZ$14、冬季はNZ$10。夏季は要予約。予約はヴィジター・インフォメーション・センターや宿の受付で可能。その時に予めハットチケットを購入しておく。またはDOCに直接連絡 +64-3-528-9117
・テントサイト - 20箇所以上。1泊NZ$7(通年)。年間を通じて予約不要。ただし1箇所での連泊は2泊まで。キャンプチケットの購入は上記のハットと同様。
・民宿(ロッジ) - 3箇所。ヴィジター・インフォメーション・センターに問い合わせのこと。+64-3-548 2304
カヤック&ウォーク:
シーカヤック・ツアー会社は、カヤッキングとトランピングを組み合わせたツアーを用意している場合が多い。
『エイベル・タズマン・カヤックス』
(私の勤務する国内最古かつ最大の会社)
フリーダイヤル : 0800-527-802
website : http://www.onjix.com/ata/
注意事項:
・ NZのアウトドアにつきもののサンドフライ(ブヨ)はここにも多い。虫除けは必携。
・ 紫外線は日本の数倍。日焼け止め、サングラス、防止も必需品。
・ 本分中に書いた通りタイダル・クロッシングがあるので、予め潮の時刻はきちんとチェックしておくこと。ヴィジター・インフォメーション・センターでも情報は入手可能だし、本屋に行けば『Tide Tables』という本を売っている
(『パドリングレポートNo.9003』参照)
詳細情報:
ライターRyuの個人サイト『Aotearoa Mail』内にリンク集を含む詳細な解説ページがある。
http://www.onjix.com/ryu/
→ 『Abel Tasman National Park』

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