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ケネプル・サウンド一周 シーカヤッキング 前編

Jan. 6- 9, 2001 美風に出逢う

20世紀最後を締め括るシーカヤッキングは『パドリングレポート No.9004』でご紹介した通りだが、今回ご紹介する21世紀第1弾も、やはり同じくマルボロ・サウンドが舞台。何度かご紹介した通り、マルボロは非常に複雑な地形を持つリアス式海岸だが、大雑把に言えば東の『クイーン・シャーロット・サウンド』と、西の『ペローラス・サウンド』の、2本の細長く巨大な入り江で構成されている(「サウンド」は「入り江」の意)。これら2本のサウンドの中が細かく枝分かれし、複雑な地形となっているのだ。前回のテニソン・インレットや今回の『ケネプル・サウンド』は、ペローラス・サウンドの中の「支流」とも言うべき入り江だ。

ケネプル・サウンド一周 シーカヤッキング 前編:イメージ1

さて、大晦日にテニソン・インレットから戻り、そのまま年越し(世紀越し)の『カウントダウンロール』を敢行して『21世紀で世界初のエスキモーロール成功者』の栄誉を手にした大バカシーカヤックガイドは、元旦早々妻と額を突き合わせてマルボロの地図を覗き込み、次のツーリング計画を練り始めた。再びダーヴィル島へ、という案も捨て難かったものの、どうしても気になり始めたのが『ケネプル・サウンド』。これはペローラス・サウンドの付け根付近から東に伸びる入り江で、東西の長さが20km程度、南北の幅が広い所でせいぜい5km程度の、お手頃サイズのフィールド。地図を眺めるうちに何となく「ピンと来た」のだが、経験豊かなアウトドアズマン諸兄にはこの感覚もお分かり頂けるかと思う。ところが、知人にあたってみてもここを漕いだ事があるヤツが見つからず、どうも情報が集まらない。これを「面白くないフィールドの証拠」と見る事も出来るが、私は「カヤッカーが少ない穴場」と見た。よし、とにかく行ってみよう。年末のパドリングは天候に恵まれなかったので、今回は天候をかなり入念にチェックしてタイミングを計った。情報の少ないフィールドで悪天候に見舞われるのは真っ平ゴメンだ。

ケネプル・サウンド一周 シーカヤッキング 前編:イメージ2

1月6日出発。情報が無いので、カヤックを下ろせるビーチを探しつつの道程。カヤックやカヌーでのツーリングの際は、数日間車を安全に放置出来そうな駐車場の確保が必須。もちろん駐車場が水から遠いと話にならない。幸いにも申し分のない場所を発見。リゾートホテルを中心とした非常に小さな集落なのだが、車は海に面したホテルの駐車場に放置出来るし、カヤックを下ろすのに恰好のボートランプまである。しかし『ポーテージ』という地名だけは、カヤッカーとしては少々不吉なものを感じない訳ではない・・・(^_^;(*1) 出発地点を探しつつのノンビリ道中だったため、我々がポーテージから漕ぎ出したのは午後6 時を回っていた。こんな真似が出来るのも、NZの夏は日没が非常に遅いから。この時期なら暗くなるのは午後10時頃。6時というとまだ夕方のうちにも入らないのだ。穏やかなシーブリーズが吹く中、ゆっくりと水を掴む。釣り船が時々行き交うものの、非常に静かで落ちついた雰囲気が漂う海だ。一口にマルボロといっても、少々離れるだけでガラリと表情が変わる。流石に複雑な地形を持つだけのことはある。良い旅の予感。やはり勘は正しかったようだ。今回のツーリングでは、反時計回りにこのケネプル・サウンド内を巡ることにして、まずは東に進路をとる。この日は1時間ほどのパドリングでキャンプ場に上陸。鏡のようなベタ凪の小さな入り江を目の前にテントを張る。隣のテントのキウィ(NZ人)一家がシーカヤックを珍しがり、海からやってきた日本人を質問攻めにする。海を自由に闊歩し、好きな所に上陸出来る旅道具に、彼等は完全に魅了されてしまったらしい。「そうか、キウィでもシーカヤックを知らない人がいるんだ。」シーカヤックのメッカでプロカヤッカーに囲まれて生活しているため、ついついキウィは皆パドラーであるかのような錯覚をしてしまう私にとって、これはなかなか楽しい経験だった。南十字星の輝く空のもと、気持ちよく平和な眠りについた。

ケネプル・サウンド一周 シーカヤッキング 前編:イメージ3

翌2日目。抜けるような青空とはよく耳にする日本語だが、ここまでカツンと抜けた青さは流石に日本では滅多にお目にかかれない。水の上を渡ってくる乾いた微風に、脳味噌は芯まで蕩ける。あぁ、これぞシーカヤッキング、これを待っていたのだ・・・。本日は目的地候補を2つ3つ挙げておくにとどめ、パドルの向くまま気の向くままにさ迷う事とする。ここはテニソン・インレットと違って沿岸線は保護地区でない所の方が多い。NZの場合、保護地区は自然林だが境界線を外れた途端に植林地や牧場になるというのが常だ。ところがここの場合は、保護地区以外の場所も自然林が色濃く残されていた。この思わぬボーナスのような自然林を愛でながら、前日に引き続きしばらく沿岸沿いに東に艇を進めていたのだが、極上の微風をもっと満喫したくなって方向転換、サウンドを北に向かって横断することにした。ほんの2kmほどの横断だが、そのわずかな間に何度も何度もパドリングを止めて深呼吸してしまうほどの、それはそれは素敵な風だった。そう、この風に逢いたくて海に漂い続けているのだ。

ケネプル・サウンド一周 シーカヤッキング 前編:イメージ4

唐突だがNZではムール貝が大人気だ。英語でマッスルと呼ばれるこの貝、日本ではパエリアの具以外にはほとんど利用されないし、私自身も別段美味いモノだとは思っていなかった。しかし、NZでその実力に開眼してしまった。ホントに美味いのだ。マルボロはマッスルの一大産地、ここでも養殖ブイを方々で目にする。美風を満喫しつつ横断した我々を迎えたのも、大量のブイだった。前夜キャンプ場で仕入れた情報によると、鯛はマッスルが大好物でブイ周辺は極上の釣り場らしい。それを聞いては黙っていられない。カヤックの機動性を活かし、モーターボートで入り込むのと叱られるようなブイの隙間に滑り込み、ハンドラインを垂らす。確かにウジャウジャいる!糸を垂れて1分以内にアタリが来る。これで今夜は鯛飯か、それとも塩焼きか。鯛の本場瀬戸内の海辺で育った私は、釣ったその日に鯛を刺身に引いたって全く美味くないことをよぉ~く知ってるので、そんな事はしない。やはり鯛飯か。頭の中は数々の鯛料理の妄想でハチ切れんばかり。しかし・・・。全くフックしない。針の大きさを色々変えてみるが、どれもこれも全くダメ。あぁ、鯛飯・・・。カヤック修行は程々にして、釣りの腕をイチから鍛え直さなくてはならないようだ・・・。

ケネプル・サウンド一周 シーカヤッキング 前編:イメージ5

未練タップリに釣り糸を垂れ続けたため、陽も傾いてきた。既定のキャンプ場まで行くのは諦め、適当なビーチでテントを張ろうと思うのだが、これがなかなか見つからない。リアス式特有の急峻な地形に加えて海が穏やかなため、広いビーチがほとんど形成されないのだ。結局ミルズ・ベイという細長い湾の最奥の行き止まりに、テント一張がやっとの猫の額のようなビーチを発見。満潮線を観察するとテントから1m以内まで海水が来るようだったが、鏡のようなベタ凪だったし、各種天候情報を総合して今後も急激に天候が悪化することはないと判断し、上陸してテント設営。もちろんカヤックは木に繋留。あまりにも危ういキャンプサイトに、幼い日の秘密基地ごっこのトキメキが甦る。案の定、夕食中に水はテントから数十cmの所までひたひたと押し寄せ、2艇のカヤックは完全に浮いた。10cmの波が立っただけでテントは海水に洗われる事になっただろうが、水面は依然として鏡の如く滑らかで、テントを濡らす事はなかった。絶妙の見切りに自己満足。(*2)夕食後はテントの側を流れる小川で水浴び。そして焚き火をつまみに、ブランデーを垂らしたコーヒーを楽しむ。静かに静かに青い水面が濃さを増し、やがて闇に飲まれて微かな波音だけが残った。そして焚き火台の中の熾きが闇に沈む頃、我々も夢に沈んだ。

-DATA-

注釈
(*1)原義は『陸上輸送』だが、カヤック用語の場合は『堰堤、倒木、手に追えない激流などで漕ぐことが出来ない場所を、上陸して艇を担いで迂回する事』。主にリバーカヤックで使われる用語。
(*2)でも決して真似しないで下さい。今回は数日前から天気図を徹底的に調べ続けていたので、天候変化のスピードも頭に入っていた上に3日後の予想天気図まで持ってきており、さらにラジオの予報と自分の目で観天望気した結果も照らし合わせて全てがOKだったので、99.99%大丈夫という確信の元に、たまたま出来ただけの事です。私自身も、これだけ好条件が揃わない限り、こんな事はやりません。ちなみにこのビーチにはテントを移動させるスペースはなかったものの、もし海が荒れた場合には人間だけが高い場所に逃げるルートはありました。これもこんな無茶なキャンプを実行する際に計算に入っていました。もしここが断崖絶壁に囲まれたビーチで、エスケープルートがなかったとしたら、0.01%の危険性を考慮して諦めたはずです。

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