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ダーヴィル島一周シーカヤッキング 後編

May. 18-28, 2000 ガイドの休日 『怠惰なパドリングと飽食の日々』

ダーヴィル島一周シーカヤッキング 後編:イメージ1

『前編・難所通過』では血沸き肉踊る難所通過の模様をお届けした。お読みになって「ハードなツアーだったんだ」と思われた読者諸兄も少なくないかもしれない。実は今回のメンバー総勢15名のうち過半数がエイベル・タズマン国立公園を拠点とするプロのシーカヤック・ガイドで、日本人は我々夫婦2人だけだったと聞くと「あぁ、やっぱりハードそうだ」と思われるかもしれない。次々に現れる難所、文明と隔絶した厳しい条件下での野営、心許ない水や食料、そして体力にモノを言わせる白人プロフェッショナル・パドラー達・・・。

ダーヴィル島一周シーカヤッキング 後編:イメージ2

しかし実をいえば、このダーヴィル島一周ツアーはその正反対の、自由放埓で心底リラックス出来るのんびりとした旅だった。シーカヤック・ガイドにとって夏は超繁忙期。ガイド・ツアー中はリラックスした雰囲気を提供するために我々も呑気な顔をしているが、実際のところは時間の制約とお客様の安全管理のために常に時計、空模様、海面をにらみつつのパドリングとなり、リラックスする余地は全くない。だからオフ・シーズン・バカンスであるこのツアーでは、皆ここぞとばかり時計を完全に無視し、とことんダラダラと旅を楽しんだのだ。

ダーヴィル島一周シーカヤッキング 後編:イメージ3

5月中旬、NZは晩秋から初冬。寒い地方はすっかり雪に覆われている頃だ。しかしマルボロ・サウンドは特に温暖な地域。寒さとは無縁の快適な好天が続く中、我々のダーヴィル島一周ツアーはスタートした。いきなりフレンチ・パス横断だが、行きは渦潮の出来るポイントを避けて通る事が出来るため、何の問題もない。やばいポイントは最終日のお楽しみだ。「行きはよいよい帰りは藻屑」などと不吉なことをつぶやいているうちにあっという間に島に到着。ホーム・フィールドの海岸線は全体が花崗岩で形成されており、海の色は見事な碧だ。ところがここは前述の通りリアス式海岸。藍くどこまでも透み切った海や、ウネウネと褶曲した地層が地殻変動の凄まじさを物語る黒っぽい海岸線など、自分の縄張りとはまるで様相の異なる景観に目を奪われ、知らず知らずのうちに魂の抜けたようなパドリングになる。人がいない。船も見当たらない。カヤックも浮かんでいない。人に擦れていないオットセイは、カヤックを見つけると大喜びで寄って来てイルカのようにジャンプを繰り返す。ブルーペンギンのカップルが目の前を横切る。恐ろしいほどの静寂。何もかもがエイベル・タズマンとは違う。

ダーヴィル島一周シーカヤッキング 後編:イメージ4

空中浮遊感を覚えるほどに透み切った藍い海を覗きこむと、遥か下の海底で何やらデカイ魚が舞う姿も見える。ならばと、針に餌をつけてハンドラインを垂らす。慣れた友人達は瞬く間に大物を次々にゴボウ抜きにするが、慣れぬ私達は坊主。魚食いの日本人の名がすたるところだが、水面付近を漂うピンポン玉大のクラゲの群れを呆然と眺めていると、釣れても釣れなくてもどうでもいいような気もしてくる。もちろん上陸してから山のように魚を持った友人たちを見て、「いや、どうでもよくはない!やっぱり魚だぁ!」と決意を新たにしたのはいうまでもないが・・・。幸いにもここは有名釣りフィールド、10日以上もツアーをやっていれば、流石に我々でも釣れるようになってしまう。もちろん夕方上陸したらコイツを肴に焚き火の前で一杯である。

ダーヴィル島一周シーカヤッキング 後編:イメージ5

同僚からこのツアーに誘われた時、2つ返事で即座に参加表明したものの、実は人気No.1フィールドで仕事をするガイド達がこぞって絶賛する島というものが今1つピンと来ていなかった。しかし来てみればプロがプライベート・ツアーで来たがるフィールドであることはすぐに納得出来た。前述のように魚は簡単なハンドラインでいくらでも釣れるし、ちょっと潜ればアワビもゴロゴロ手に入る。小川にはクレソン、野原にはマッシュルームが自生。海岸には文字通り山積みの流木。エイベル・タズマン国立公園では禁止されている焚き火も、ここでなら文句は言われない。朝から焚き火の前で寛ぎ、昼近くなってから重い腰を上げて艇を出す。海に出ても相変わらずのんびりだ。少し行っては釣り糸を垂れ、ちょっと行っては洞窟を探検。夕方上陸したら幕営地を物色し、小川を見つけて水を汲み、その日の獲物を料理。満天の星を焦がす焚き火を起こし、海の幸で飽食三昧。妻が作った、現地調達のアワビ、マッシュルーム、クレソンに持参のトマト、ニンニクを加えた中華スープの味は、きっと死ぬまで忘れない。南十字星を眺めつつ、他愛もないおしゃべりとワイン。焚き火に似合うのは下手糞なギターと音痴な歌声。早発ちのために早寝する無粋モノもいなければ、遅くまでバカ騒ぎし過ぎて顰蹙を買う愚か者もいない。ただし、夜中テントの周りでペンギンが大騒ぎするのはマルボロ・サウンド名物。この島も例外ではなく、耳栓を持たぬメンバーは不眠気味だった。ともあれ、野外生活の楽しみの真髄をとことん知り尽くしたアウトドア超大国のプロフェッショナル達が、心底寛いでいる。日本人アウトドアズマンが見れば目を丸くするような貧弱な装備で、恐ろしく豊かな野外生活をさらりと愉しむ。やはり歴史が違う。アウトドアの極意、ここにあり。

ダーヴィル島一周シーカヤッキング 後編:イメージ6

この聖地を守っているのは、前編でご紹介した南北端に居座る有名な魔の海域と、西海岸を洗う外洋特有のパワーのあるウネリ。これらが静寂と豊潤な自然の恵みを提供してくれている。事前の情報収拾、パドリング、ナビゲーション、観天望気、ファーストエイドなどの危機管理能力、そして10日間に及ぶ野営生活能力などの能力を兼ね備えたパドラーだけを、ダーヴィル島は受け入れてくれるのだ。受け入れてもらえれば、島は優しい。自力調達する能力さえあれば、食べ物も水も燃料も無尽蔵だし、海を読む能力とパドリングテクニックさえあれば、難所も楽しい。これは確かに取り憑かれる。私も完全に嵌った。3ヶ月経った今も島の風景が時折フラッシュバックして呆然となる。無性に島が恋しい・・・。

ダーヴィル島一周シーカヤッキング 後編:イメージ7

最終日、魔のフレンチ・パスを横断。停流時ズバリを狙って横断したのはもちろん言うまでもないが、天候に恵まれて完全無風のベタ凪であったため、ヘルズ・ゲイトとは対極の、気が抜けるほどにまっ平らな水面だった。私はタンデム艇の後席で立ち上がり、難所のド真中で写真を撮った。あまりの天気のよさのためだろうか、残念ながらNZの船幽霊は写らなかった。

-DATA-

場所:
・マルボロ・サウンド海洋公園 - ニュージーランド南島北端部マルボロ地方のリアス式海岸線で構成される、非常に美しい海洋公園。拠点はピクトン、ハヴロックなど。
・ダーヴィル島 - 公園西端に浮く公園最大かつ国内第3の島。シーカヤックで渡る場合は、本土のフレンチ・パスという村から。
交通:
ネルソンより国道6号線をブレナム方面へ。ライ・ヴァレーの集落でロンガ・ロードへ左折。あとは道なりにひたすら直進、行き止まりがフレンチ・パスの村。
ネルソンより車で2時間半。ただし後半1時間半は未舗装路。
公共交通手段はないので自家用車、レンタカーで。
駐車場:
フレンチパスの村にあり(無料)
トイレ:
フレンチ・パスの村にDOC(NZ自然保護局)管理の小さなキャンプ場があり、そこのトイレが利用できる。冷水シャワーもある。
ダーヴィル島に渡ると一切トイレも上水道もない。海岸線沿いには民家もほとんど見られないので、基本的には全てワイルド・トイレットとなる。
地図:
DOC発行『Parkmap Marlborough Sounds』がお薦め。海図(マリン・チャート)は夜間航行する予定がない限り、あまり役に立たない。
釣り:
ハンドラインで十分、竿は不要。
ブルーコッド(タラの仲間)、レッド・ガーナード(ホウボウの仲間)、バラクーダ(カマス)、レザー・ジャック(カワハギの仲間)、スナッパー(タイの仲間)など。
アワビ:
岩場で潜る。1人1日10個まで。ただし長辺125mm以下のものは禁漁。(上記『TIDE TABLE』参照)水温は夏でも日本の冬の海並みに低いので、ウェットスーツは必要。
食料調達:
上記のような現地調達を除けば、一般的な食材の購入はまず不可能。フレンチ・パスの村でも大した物は入手出来ないので、予めネルソン(またはブレナム)の街で揃えておこう。
水:
小川を利用。生水飲用は厳禁。浄水器、浄水剤などが必要。湖しかないビーチもあるので、流れている清冽な水が手に入る所でなるべく大量の水を確保しておく事。
難所通過のタイミング:
本屋で手に入る『TIDE TABLES』の「NELSON, GOLDEN BAY, WEST COAST版」を参照し、満潮時、干潮時の『停流時』を狙う。もちろん日程的に可能ならば小潮の日を狙うに越した事はない。
French Passは表本体の中に記載されている。
Hells Gateは巻頭の『NELSON TIME DIFFERNCES』のページの『Stephens Island』を参照。
その他の危機管理:
・事前の情報収集は微に入り細に入り徹底的に。
・単独行は決して薦めない。最低2艇以上で行くことを強くお薦めする。タンデム艇1艇というパターンも出来れば避けたい。
・天気予報をラジオで聞き、SOSを無線通信する程度の英語力は必要。
・観天望気のテクニックは必須。場所によってはAMラジオの電波も入らないので、天気予報も聞けない。
・サーフゾーン内でのロール(左右両方)、ある程度のサーフィン・テクニック、及びサーフゾーン内レスキューなどの技術は全メンバー必須。荒れたヘルズ・ゲイトやフレンチ ・パスで沈したら他人のレスキューはあまり当てに出来ない(二次災害になる)し、パドルフロートはもっと役に立たない。
・パドルフロートだけではなくスローロープとトウラインも各メンバーがそれぞれ携行する事。パドル・リーシュもあった方がいいだろう。
・フレア、マリンVHFラジオは必携。可能ならばEPIRBも持つべき。携帯電話はほとんど役に立たない。
・食料は最低2週間分。水のコンテナは1人につき6リットル程度必要。
・流木は無尽蔵にあるので、燃料は雨天時のバックアップ用程度で足りる。
・西海岸には無数の洞窟があるが、外洋(タズマン海)なのでかなりのパワーのウネリが来る。深く狭い穴に入る際は、細心の注意を。事故があった場合、事態は極めて深刻な事になりやすい上、やはりレスキューも困難だ。
・医者もいないのでファーストエイドキットも念入りに準備。サンドフライ(ブヨ)には要注意。

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