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武田尾温泉

Jul.14, 2002 武庫川上流、天狗嶽の渓谷に湧く湯

武田尾温泉は武田直蔵という木こりが寛永18年(1641年)、武庫川上流の渓谷沿いに湧き出る湯を発見したと伝えられる温泉。大阪や神戸からのアクセスが便利で、喧騒から離れて束の間の休息を求める多忙人にも格別の隠れ家を提供する。何故かガイドブックではあまり頻繁に取り上げられていないものの、足を運んだ友人からの評判が抜群だったので一度訪れてみようと思った。

武田尾温泉:イメージ1

大阪からJR福知山線快速に乗車。30分ほど走行した後、宝塚で普通に乗り換えて最寄り駅の武田尾駅へ。列車は、華やかな宝塚の市街地からトンネルを幾つか抜けて深い緑の中へ。都会からほんの少し離れただけなのに、宝塚から2駅目にあたる武田尾駅に近づく頃にはすっかり秘境の風景。高架の駅を階段で 1階改札まで下りると、武庫川の清流に渓谷が迫り、それを取り囲むようにそびえる深閑な山々にはヒグラシが染み渡るように鳴いていた。

武田尾温泉:イメージ2

武田尾駅の付近はコンビニエンスストアはおろか数軒の旅館と民家しかなく、乗降客が少ないゆえに無人駅。切符をボックスに入れると道が二手に分かれている。正面の看板にて温泉マークを確認して右折。武庫川を上流へ遡るように遊歩道を3分ほど歩くと、仄かな燈灯が点る薄暗いトンネルに入る。昼間なのに山間の暗がりをくぐって温泉に向かうなど情緒があり、まるで物語の世界へ通じているような不思議な気分にさえなる。しかし、進路に沿って左折すると、すぐに出口が現れ、武庫川にかかる赤い吊り橋の正面に出る。

武田尾温泉:イメージ3

この吊り橋は昭和58年に再建された武田尾温泉のシンボル的存在。その燃えるような赤色が周囲の緑と映えて美しい。足場も広いので特に心配には及ばないが少々揺れる。注意しながら渡っていると、右手に山々と渓谷に抱かれた温泉郷が広がりはじめ、数軒の宿がひっそりと立ち並ぶのが見える。それが武田尾温泉の温泉の中心。

武田尾温泉:イメージ4

武庫川の渓谷が上流方向に大きなカーブを描いて続くのを見ながらしばらく歩いた。陽光に透き通るもみじの葉、河川敷でバーベキューを楽しむ若者たち、山懐に静かにたなびく宿の煙。そこには都会生活では味わえないような独特の長閑さがあった。遊歩道を3分ほど歩くと、木戸七蔵が建てたマルキ旅館が静かに佇むのが見える。明治30年に建てられた武田尾最古の歴史を誇る旅館である。○の中にキと書いて旅館名を表示するところも誠にユニークだ。その坂道を2分ほど上って行くと、水上勉の小説「桜守」の中に登場する河鹿荘がある。話中に描かれた茅葺き屋根もまだ健在で、歴史情緒豊かに旅人を迎えてくれた。

武田尾温泉の湯は無色透明で含食塩硫黄泉。神経痛、リウマチ、皮膚病などに効能がある。ダルマの手焼きタイルや岩をくり貫いた岩窟風呂などはこの温泉ならではでゆっくり味わってみたい。清流武庫川のせせらぎを耳をすませ、高々とそびえる天狗嶽を眺望に思いを馳せながら、この渓谷の湯に入っていると、まるで自然と同化するような心地よい気分になり、いつの間にか疲れが取れていた。

武田尾温泉:イメージ5

丹波山地や武庫川に抱かれた風光明媚な土地にある武田尾温泉は友人の勧め通り素晴らしい温泉だった。しかも、これほど自然に浸れて心身ともにリラックスできる温泉が大阪から40分ほどの距離にあるとは驚きだ。阪神近辺随一の穴場としてお勧めしたい。

-DATA-

場所:
兵庫県西宮市塩瀬町
交通:
JR福知山線武田尾駅から徒歩8分。または中国自動車道宝塚ICより国道176号線生瀬より6km
駐車場:
各旅館
泉質:
含食塩硫黄泉
(効能:神経痛、リウマチ、皮膚病)
入浴:
マルキ旅館(1,000円)
電話:
0797-61-0221

有馬温泉

Jul.13, 2002 関西の奥座敷、日本三大古泉の一つに挙げられる名湯 

有馬温泉:イメージ1

六甲山を越えた山上にある有馬温泉は、白浜温泉、道後温泉と並ぶ三大古泉の一つとして知られる名湯。仕事柄、地方に訪れる機会が多い私は、白浜と道後の湯には幾度か入らせて頂いたのだが、一番近い筈の有馬に出かける機会は何故か恵まれなかった。日本の最も古き湯を廻ることは古人の生活の足跡を知ることである。台風一過、蝉の時雨とともに本格的な暑さが再来した季節の変わり目を契機に、日本三大古泉の残り一つ、有馬温泉に訪れることにした。

有馬温泉:イメージ2

有馬温泉のルーツを辿れば、大巳貴命と少彦名命が有馬山麓に立ち上る湯煙を発見したところまで遡る。およそ大和朝廷の時代である。それから舒明天皇が632年行幸の際に入湯したとの記録があり、奈良時代には行基が温泉寺などを建立して温泉地として整備している。そのころ既に湯治場として高い知名度を誇っていた有馬温泉だが、その人気に拍車がかかったのは安土桃山時代のこと。戦国の武将として名高い豊臣秀吉が大地震で壊滅的に陥った有馬温泉を修復してからである。秀吉はそれを契機に千利休らを引き連れて幾度となく有馬の地を訪れている。その回数、記録だけでも数十回に及んだというのだから、秀吉がいかに有馬の湯を好んだかがうかがい知れる。また、その度に大掛かりな茶会が催されたため、有馬温泉は文人たちが集う文化の拠点としても発展することになった。明治時代に入ると、初代内閣総理大臣の伊藤博文や文豪谷崎潤一郎なども訪れてすっかり「由緒のある」という形容詞が板に付く有馬温泉は、現在では交通機関も整備され、大阪や神戸からも一時間以内で来れるという名湯の名を欲しいがままにしている。

標高360m、有馬温泉は神戸の奥座敷とされる六甲山北麓にある。小さく開けた有馬盆地は、落葉山、愛宕山、射場山など深い緑に囲まれて盛夏でも比較的冷涼。神戸電鉄有馬温泉駅を下りるとすぐに温泉街が広がりはじめる。右手の愛宕山方向へ歩を進めると近代的なホテルや町屋風の老舗旅館などが立ち並び、温泉街の華やかさを物語っている。太閤橋を渡り、ねね橋を左に見ながら太閤通りを5分ほど行くと、数軒の土産屋を過ぎて右手に観光案内所。それを目印に左方向に目を遣ると、湯元坂と呼ばれるやや急な坂道が愛宕山に向かって伸びている。その勾配を約5分上がり、温泉寺や極楽寺を抜けて「銀泉」の標識に従って歩くと、民家の立ち並ぶ路地に面して和風の一階屋に明かりが灯っているのが見える。そこが平成13年9月にオープンした共同浴場、当日入浴した「銀泉」である。

有馬温泉:イメージ3

鐘楼をイメージしたという「銀の湯」の外観より内部に入ると、真新しい待合室があり、その先に通路が続いていた。フロントにて入湯料を支払うと引き換えに風呂場のロッカーのキーを渡してくれる。通路伝いに15秒ほどで脱衣場。「銀の湯」の浴室は、秀吉が入った岩風呂がモデルになっていることもあり、壁に御影石が埋め込まれているのが特徴的だった。無色透明の湯がまるで岩清水のように湧き出しているようで心地よい。奥には秀吉が入った蒸し風呂をイメージしたサウナもある。

有馬温泉には金泉、銀泉、炭酸泉と3種の湯があり、それぞれ成分や効用が異なっている。そのため、「有馬の湯は万病に効く」と古くから言い伝えられて重宝されてきた。当日入った「銀の湯」はその内の銀泉で、無色透明のラジウム泉。慢性消化器疾患に効能がある。一方で金泉は鉄を含んで赤茶色。塩辛く(海水の2倍の塩分)とろりとした肌触りが特徴でリウマチ、神経痛、胃腸病などに効用があるとされる。共同浴場で金泉に入れるといえば「有馬温泉会館」が知られていたのだが、現在、改修工事中で、平成14年の秋に「金の湯」としてリニューアルオープンすることになっている。今回は銀泉に入浴したので秋以降に再びこの地を踏んだときは金泉にも浸かることができればと思った。

有馬温泉:イメージ4

風呂から上がって有馬の温泉街を散策してみた。奈良時代に建立の温泉寺は温泉会館から南東に100mほど。その界隈に点在する寺院で参拝をしてから北へ 100mほど路地を進むと天満宮があり、もうもうと湯煙が立ち込めていた。それが有馬温泉泉源井戸。そこだけで地下185mから一日40klもの湯をくみ上げているという。温泉街から少し離れた小高い丘の上に、華やかな温泉街を支える源泉がひっそり佇むことを知ると何とも感慨深い思いがする。星空のような温泉町の明かり、錆びた湯煙の香り、行き交う温泉客の浴衣姿。夕日が山の端に落ち、有馬温泉の賑やかな夜が到来する。

-DATA-

場所:
兵庫県北区有馬町
交通:
神戸電鉄有馬温泉駅から徒歩10分。または六甲有馬ロープウエー有馬駅より徒歩10分。車なら中国道西宮北ICより県道98号線を南下6km
駐車場:
湯煙広場駐車場など。
泉質:
銀泉(無色透明のラジウム泉。飲用することで慢性消化器疾患に効能。)
料金:
銀の湯(550円)

道後温泉

Jul.05, 2002 3000年の歴史、小説「坊っちゃん」ゆかりの名湯

道後温泉は3000年の歴史を誇る日本最古の温泉。本館を中心に、100件以上の宿が立ち並ぶその界隈には、城下町の名残と湯治場の素朴さが通い合う。

「天下の名湯」として名高い道後温泉の街には幾つかの見所があるが、その中でも最大の目玉とされるのは、やはり道後温泉本館(通称坊ちゃんの湯)である。それは夏目漱石著「坊ちゃん」の作品中でも紹介されている温泉街のシンボル的存在。「おれはここに来てから毎日住田の温泉に行くことに決めている。ほかの所は何を見ても東京の足元にも及ばないが温泉だけはりっぱなものだ。」と下町風に述べられているのは、松山の中学に赴任したばかりの主人公(坊っちゃん)の台詞。

道後温泉:イメージ1

伊予鉄道道後温泉駅より商店街のアーケードを200mほど進んでから十字路に突き当たったところで右折して30mほど。柳が植わる路地に沿って、3 階建て木造の建物が高々とそびえているのが見える。それが道後温泉本館。本館上の振鷺閣には伝説の白鷺があしらわれ、重層な上に豪華な気品さえ漂う。屋根瓦下ののれんの内側からこぼれる明かりに、浴衣姿の人々が賑やかに談笑しながら消えていく。

3階建ての本館の内部は「神の湯」、「霊(たま)の湯」、皇族専用の「又新殿(ゆうしんでん)」、漱石ゆかりの「坊ちゃんの間」など幾つかのスペースに分かれている。受付で切符を購入し、のれんをくぐって館内へ。下駄箱に靴を入れて鍵を掛けてから入り口の係員に切符を切ってもらう。「神の湯」に入るならそこで石鹸付きタオル(50円)を買う(タオルや石鹸は宿泊するホテルから持参すると良いだろう)。

銭湯感覚で地元の方々も多い神の湯は、1階と2階に入り口がある。そのうち、300円のコースなら、そのまま廊下を直進して左折。そこが神の湯の脱衣所にあたる。620円のコースなら、一度階段を上がって2階の控えの間へ。そこで荷物や上着などを置いて1階の脱衣場へ続く階段を下りる。

脱衣所すぐ正面に風呂はあるのだが、東、西と2ヶ所に分かれているので、どちらに入ろうかと迷うかもしれないが、構造や広さなどほとんど同じなのでお好み次第。脱衣してロッカーに鍵を掛け(無料のものと100円入れるものがある)、風呂の内部に入ると、湯煙の先に花崗岩を畳みあげた円形の湯壷が目に飛び込んでくる。常に新しい湯が湧出しては溢れ出ていくので、そこにはいつも湯がなみなみと満ちている。湯に浸かってみると、意外と深いことに気づくのだが、半身浴するための段があるのでゆっくり座ってくつろぐことができる。道後の湯はアルカリ単純泉。さらりとした肌感でリウマチ、神経痛、疲労回復などに効用がある。また、成分が体の芯まで染み込みやすいので、湯冷めしにくいそうだ。檜の湯桶も香りが良く心地良い。ふと石壁を見上げると、「坊っちゃん泳ぐべからず」という大きな黒札が掛けられていた。そう言えば小説「坊っちゃん」では主人公が風呂を泳ぐ描写があった。それを受けてのことだろうか、何ともユーモラスで嬉しくなる。

風呂から上がって体をよく拭いて着衣。620円のコースならその後、再び階段を上がって控えの間へ。すると、風呂上がりに気づいた係の方が輪島塗の天目にお茶碗を載せ、お菓子(せんべい)とお茶を運んできてくれる。45畳の広さを誇るこの広間は通称「坊っちゃんの間」と呼ばれ、畳の香りと木造の格子窓から漏れ入る温泉街の明かりが何とも言えない雅な雰囲気を作り出す。

霊の湯は2階と3階にある。2階は980円、3階は1,240円(個室)と神の湯と比べると少々割高感があるが、そのぶん、込み合う観光の繁期にも比較的ゆったりできる。それだけでなく、風呂に入ると大島石を使った浴槽は随分広く、素朴さに優雅さを加えている。風呂上がりにはお茶とお菓子のサービス付。その他、同じ階にある皇族専用の又新殿は入浴することはできないが、係の方の案内で観覧することができる(210円)。

道後温泉:イメージ2

湯上がり後、時間を見計らって「からくり時計」の見物に行ってみると良いだろう。それは伊予鉄道道後温泉駅の隣、観光会館前にある道後名物の観光時計。8時から21時までの毎時00分、その煌煌とライトアップされた時計は時を知らせる音楽とともに下方より持ち上がり、堅く閉ざされた扉がゆっくり開く。そして内部から登場するのはマドンナや赤シャツなど夏目漱石著「坊っちゃん」の登場人物の人形。そしてくるくると回りながら踊る可愛らしいパフォーマンスを披露してくれる。当日は雨模様ながら多くの傘がからくり時計前に集まり、その旅情溢れる光景にあちこちから歓声が上がっていた。

翌朝6時、道後温泉本館に向かった。早朝だというのに多くの人々が入り口の前に集まっていた。本館の一日は「刻太鼓」と呼ばれる太鼓の音で始まる(刻太鼓は環境庁(当時)の「日本の残したい音100選」に選出)。その情緒ある音の響きともに東の空が漆黒の闇より藍、青とゆっくり変化していき、町も次第に活気を帯びてくる。

-DATA-

場所:
愛媛県松山市
交通:
JR松山駅から伊予鉄道で道後温泉駅。または市バスで道後温泉行
泉質:
単純アルカリ泉
料金:
神の湯:
300円コース(6~23時 ※22時30分札止め)
620円コース(6~22時 ※21時札止め)
霊の湯:
980円コース(6~22時 ※21時札止め)
1,240円コース(6~22時 ※20時40分札止め)
駐車場:
道後公園北口付近に複数あり

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