ホーム >> フィッシングレポート >> アキアカネ舞う奥武蔵「歌人の谷」
アキアカネ舞う奥武蔵「歌人の谷」
Sep.23, 2001 2001年渓流エピローグ
新しい年の幕開けは禁漁期突入と同時に悶々と日々を過ごしてきた渓流釣り師にとって、 うれしい谷開けの年でもある。2月、3月と各地の渓流が相次いで解禁し、釣り人を受け入 れていく。2001年の最終釣行を振り返り、禁漁から解禁までのブランクを埋め、感覚を取 り戻し、解禁の瞬間に臨みたい。「東京オリンピックのあった次の年、昭和40年春のこと である。友人2人とヤマメ釣りに行って、車ごと渓谷へ転落し、全治2週間ほどの怪我をし た」の書き出しで始まるエッセイスト・田中祐三さん作「転落」は、埼玉県名栗村の名栗 川支流有馬谷での渓流釣りの始終を書いたものだ。同行者が尺近い大物のヤマメを仕留め た記述から分かるとおり、当時はいまと比較にならないほど随分と魚影の濃い谷で、これ といった悪場もないので初心者からベテランまで幅広い層の関東の釣り人に愛された。平 成13年秋。この年の渓流釣りのシーズンを締めくくる最終釣行を「転落」に触発されたわ けではないが、名栗川(入間川)にしたいと、東京の友人、Tさんにその旨をメールで報 告すると、「了解!」の二つ返事。最終釣行は一種の儀式のようなもので、釣れればたと え15~6センチの小ヤマメでもいいのだ。それと、最終だもの秋の渓谷をのんびりと時間 を気にせず、味わいながら遡りたい。

名栗川での渓流釣りの場合、上名栗の名栗村役場を中心とした本流と支流の釣りとに分け られる。ヤマメの棲息については下流、飯能市の原市場地区でも確認できるが、絶対数が 少ないので釣りのターゲットとして考えるとやはり対象外。名栗村役場付近の流れはハヤ (ウグイ)との混生となり、ヤマメの魚影は薄い。で、役場下流はどうかというと、やは り同様の傾向だ。しかし、終始釣り人に攻め抜かれ、ハイプレッシャー状態の上流の定番 ポイントと比べてこうした混生域でのヤマメは比較的釣りやすいし、加えて豊富な水量で 時にまるまると太っているコンディションの良い幅広にも出会える確率も高い。だから、 シーズンのうち、2、3回は中・下流帯でのヤマメ釣りを楽しんでいる。一方、名栗村内で あれば、ヤマメはすべての支流に棲息している。下流から順に列記すると、湯基入り(と うぎいり)、有間川、村役場上流で右岸から注ぐ炭谷入り(すみやいり)、左岸の穴沢、 再び右岸に戻って人見入り、わらび入り、そして秩父市へ抜ける山伏峠に沿う左岸の湯ノ 沢、キャンプ場(大鳩園)上流で左に大きくカーブし本流と分岐する白岩入りなど。これ ら支流はいずれも川沿いに林道が走っているので、どこからでも入渓できるのが特徴でも ある。そして今回、ぼくたちは最終釣行に炭谷入りと湯基入りを選択した。

【炭谷入り】秩父市へ通じる県道青梅秩父線を名栗村役場入り口の案内にそって左にとり 、しばらくして現れる鉄筋コンクリート造3階建ての村役場庁舎前を200メートルほど進ん で最初に横断する流れが炭谷入り。延長5~6メートルほどの小さな橋が架かっているが、 同橋が目印。見過ごしてしまわないよう注意する。渡橋直後、右折すると名栗川本流との 合流点、左折してそのまま未舗装の林道を直進すれば炭谷入りの上流へと向かう。釣りは 本流出合いから可能となり、雨後など条件が良いと、幅広の良型ヤマメが竿を絞り込む。 出合いから200メートルほどは生活道路に並行したほぼ直線の流れで、両岸は護岸で固め られている。この区間の流れについては道路から見渡せるので、そっと流れをのぞき込む と、瀬尻に定位するヤマメの姿を確認できることもある。ウェーダーはヒップブーツで十 分。橋以遠は林間の釣り場となり、道路も流れから遠ざかり、渓流の趣。流れに沈んでい る石周りや落ち込みなどを丹念に探れば小さいけれどもヤマメの魚信はある。9月23日、 ぼくたちは毛針とルアーで交互に釣り上った。ぼくはルアーを選択し3グラムのスプーン を、友人はティペットの先に16番のドライフライ、ブラウンパラシュートを結び、ショー トレンジでぽんぽんとリズミカルに水面を叩きながら遡る。小渓なので、先行者がいると まったく釣りにならないので、車での釣行の場合は入渓前に一度川沿いの林道を走り、釣 り人の有無を確認してみるのもいいだろう。アップストリームで川に平行にキャストし、 ルアー着水とほぼ同時に流れよりも幾分早めに巻き取る。追尾してくる小魚が数匹見える が、目当てのヤマメではない。細流から魚信がないまま1時間ほど経過。どうやら、今日 は不調だ。下流支流に移動する。

【湯基入り】「わかし湯のラジウムの湯はこちたくもよごれてぬるし窓に梅咲き」。歌人 ・若山牧水が大正時代に何度も逗留し、前記歌に詠んだラジウム鉱泉宿が渓畔にたつ湯基 入り。炭谷入りから約1・5キロ下った本流右岸から注ぎ込む小河川だが、炭谷入りと比 べて水量、魚影とも勝る。東京都奥多摩町と境をなす県界尾根の棒ノ折山(969メートル )を源としており、名栗川支流群の中でも三指に数えられる渓だ。出合いは道路を暗渠で 抜けた流れで、ここをくぐり抜けてすぐさま現れる渕では必ずといっていいほど魚信があ る。車を止めて、合流点付近から入渓する。炭谷入りと同じように谷川沿いを林道が延び るが、こちらは道沿いに民家が点在し、里川の様相だ。落ち込みが随所に現れるので、油 断は禁物。下流から順に一つずつポイントを攻略していこう。ルアーの場合、軽量なスピ ナーも有効。流れの表層を横切るように手元にリーリングしてくると、グンとあたりがく る。木漏れ日が射す林間を抜けると、ほどなくラジウム鉱泉宿が前方に見えてきた。宿の 下流側は両岸護岸されているが、水流の勢いで下部がえぐれ、絶好の隠れ家をヤマメに提 供している。ここは丁寧に釣り上がろう。やがて小さな橋をくぐり、流れは道路に近づく が、やはり護岸下が第一級のポイント。投射した3グラムのスプーンに25センチオーバー のヤマメがアタックしてきたこともある。宿を過ぎると、流れは階段上の渓谷に変化し、 そのまま突き上げる。頭上と両岸が樹木で覆われ、藪沢と流れは変化していくのでフライ では少々難儀するが、逆にいうとキャスティングの腕のみせどころ。「おーい」という声 に振り向くと、宿のすぐ下流で、友人のTさんが2001年の渓流シーズンを20センチクラス のヤマメを釣り上げ、ぼくに見せた。傾き始めた光の中で、アキアカネの一群が牧水もの ぞき込んだであろう谷川に出現して、閉幕を告げた。
-DATA-
- 場所:
- 埼玉県入間郡名栗村
- 交通:
- 東京都内からは首都圏中央連絡自動車道「狭山・日高IC」下車、飯能市街地 から県道飯能名栗線。鉄道利用の場合は、西武池袋線飯能駅下車、国際興業バス「名郷」 「湯の沢行」。
- 駐車場:
- 河川沿い。ただし、通行の妨げにならぬよう注意。
- 温泉:
- 大松閣(0429-79-0505)
河鹿荘(0429-79-0173)
村営さわらびの湯( 0429-79-1212) - 参考:
- 釣り場など観光の問い合わせ:名栗村観光協会(0429-79-1515) http://www1.sphere.ne.jp/wara-bi/naguri/
コメント(0)
コメントはまだありません。
コメントを投稿
(いままで、ここでコメントしたことがないときは、コメントを表示する前にこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。そのときはしばらく待ってください。)