昭和30年2月に埼玉県比企(ひき)郡の明覚村、平村、秩父郡の大椚村が合併して誕生した都幾川(ときがわ)村は、東西約12キロ、南北約7.5キロの細長い村だ。平地が秩父山地へと移行するその境目の自治体のこの村を貫くのが都幾川。下流からコイ、ヤマベ、ウグイ、ヤマメ、イワナとそれこそ淡水に生息する魚のほとんどを見ることができる。
今シーズン最初の釣りを都幾川と決めたのは、この川では地元の渓流会がヤマメの発眼卵放流をずっと何年も続けていて、大きく成長したヤマメが何匹も釣れているという情報が寄せられたことが大きな理由だ。渓流魚の河川への放流方法は成魚、稚魚、そして卵そのものを特殊な孵化器に入れて、孵化器ごと河川に設置するやり方の主に3パターン。20センチ以上の成魚放流を釣り人は最も好むが、そこまでの飼育期間が長いので、一匹の放流単価は高い。しかし、卵の状態で放流する発眼卵放流は人の手間がかかっていないので、すこぶる安価。だから、資金確保に困窮する放流団体にはもってこいの放流方法だ。都幾川での発眼卵放流の結果を釣りを通して確認したかったことも、この川へと向かうきっかけになった。友人のTさんを誘い、JR八高線に沿って車を走らせた。
春まだ浅い解禁時は低水温のため、魚の活性化も低い。そのため、流速がある瀬よりも流れの穏やかな渕に魚は集まる。フライではドライよりもウェット、ウェットよりもさらに深い層を探ることができるニンフフライに分があるのは、このためだ。一方、ルアーについてはシーズンを通して安定した釣果を約束してくれるので、フライタックルとともに必ず携行している。そういうわけで、解禁釣行もご多分にもれず、フライとルアータックルを携えての二刀流となった。入渓地点は、大岩や奇岩が連続して渓谷のような景観を作りだしている「三波渓谷」の上流の橋から。渓流釣りもそうだが、川釣りの場合、たいがいは橋の袂から流れへ降りる道があるものだが、土手には枯れたアシが繁茂していて見つからない。つま先で地面の感触を探りながら、おそるおそる下降する。この辺りの都幾川は渓流というよりは、ウグイ(ハヤ)が泳いでいそうな流れ。渓相は渓流というよりは清流のそれに近いが、解禁当初の渓流釣りは下流帯を狙うのが定石である。まず、ルアーで探ってみることにした。タックルはロッドがウエダのBWS-55、リールがミッチェル408。ミッチェルは酷使しているのでボディの塗装が剥げ落ちてスプールの回転もあやしいが、デザインが気に入っているので未だ現役リールの一つだ。
数百メートルを交互に探釣したが、3グラムのスプーンを追尾してくるのは10センチにも満たないウグイ(ハヤ)のみ。気温が上昇し、小さなカゲロウが羽化しているのにも関わらず、Tさんフライにもヤマメの反応はない。そこで一端上がり、場所替えのため車に戻ることに。林業の村だけあって製材所が多い。古くから林業が地場産業として村の経済を支えてきたに違いない。平坦な都幾川村が高度をかせぐ道路にあわせて流れから遠ざかる辺りから再入渓。車を止めたコンクリート橋の袂から流れをのぞき込むと、高さ1.5メートルほどの堰堤下にこの日最高のポイントと思われるプールが見えた。川幅は7〜8メートル。その幅いっぱいに堰堤が築かれ、深さ2メートル以上の渕底にはヤマメの隠れ家に絶好の大小の石が沈んでいる。斜め前方の水の落ち口にルアーをキャスト、カウントダウンして巻き取る。ルアーは大石の裏側を通過し、水中でキラリ、キラリと光を放って魚を誘惑する。魚がいれば、必ず反応があるポイントだ。しかし、出ない。フライからルアーにチェンジして、隣りでキャスティングするTさんも、あきらめ顔。そろそろあがろうかと思案し始めた時、ククッと小さなあたりがあり、巻き取ると手のひらサイズのヤマメが寄ってきた。2002年最初の一匹は20センチにも満たない小さな小さな魚だったが、姿を確認できて嬉しかった。都幾川のヤマメは主に地域ボランティアの自主放流で保たれているとも聞く。ぜひとも、再放流を心がけたい。
-DATA-